創作

【恋愛小説】私の『イエス様』【オリジナル】

どうも、書い人(かいと)です。

さっさと本編を、どうぞ!!

私の『イエス様』

なーにが、『イエス様』だ。
そう、彼女は心の中で毒づいた。男女共学の私立高校に通う彼女は、浮きも沈みもしない気軽な立ち位置をキープしていることを毎日確認しながら、日々を過ごしていた。
名前を英真(エマ)と言う。
長すぎない程度に、良く梳(す)いた黒髪。一度も染めたことはないし、比較的偏差値と学費が高い、お坊っちゃまお嬢様が通うような学校では、地毛でもないかぎり金髪は一人も居ない。
服装は全員、きっちりとした黒のブレザー。育ちの良さも相まって、全員が職員みたいな教室の空間がある。教師は私服で良いので、どっちが職員なのか分からない、というのは流石に冗談の域かもしれないが。
『イエス様』というのは、同級生の男子一名の通称だ。
一八〇センチ近い長身で、線が細い感じ。華奢(きゃしゃ)とも違うが、女子でもドン、と押せば倒せるかもしれない。いつも優しげで、「はい、はい」とよく言うので、『イエスマン』から変遷(へんせん)を経て『イエス様』となったというわけだ。
英真から見ると、『イエス様』は不思議なクラスメートだった。
いつの間にか英真を含めた女子にも気軽に声をかけるものだから、男子からは重宝されている様子だった。橋渡し役に適任らしい。軟派な話だ、と英真はやはり内心で毒づいていた。
『イエス様』は、他人の言動を否定しない。
試しに、単調な男子と話すのが億劫(おっくう)になって、「聖書でも読んでみたら? イエス様なんでしょ」とぶん投げると、あっさり、「今度、ダウンロードしておくよ」と。そう『イエス様』は答えた。
「聖書って、面白い」
休祝日の三日を挟んで、久しぶりでもないが間の空いた登校。『イエス様』はしっかりと読んでいた。英真は一ページも読んだことはなかったので、若干の申し訳無さから、内容について聞いてみた。
彼はスマホを開くと、いくつかの詩のような新約聖書の内容を朗読(ろうどく)してみせる。
「まあ、流石に世界一売れている本なだけあるわね」
英真もその『ありがたいお言葉』を幾つか聞き、まあ確かに、そこまで悪くないものだとは思った。案外、筋がちゃんと通っているものだった。さすがは本家、なのか?
「ところで、姦淫(かんいん)ってなんだろう?」
朝の教室で一瞬気まずくなる。
あ、聖書の内容か、と。
「ええと、」Sで始まる言葉を、即座に英真は言った。堂々とし過ぎだが、女子というか私という生き物はそんな感じだ、という意思表示だった。
『イエス様』は耳まで赤くして、理解したようだった。
「知らなかった、ごめん」
「ガキじゃないんだから、しっかりしてよね」英真は、白い歯を出して、少し笑ってみせた。
「はい」
それが、『イエス様』との、最初のまともな会話だった。

放課後に図書館で勉強をするのは良い。そう英真は思っていた。
わかりやすい形で騒々しくはできないので、会話が抑えられるし、仲の良い同級生と一緒にしていても、煩(うるさ)くなりすぎないのがとても良い。
その図書館で、『イエス様』が出入りしているのをよく見かける。彼は、文芸部員なのだった。
広い図書館は中心部にテーブルが連結されていて、その外周に本棚や共用のデスクトップPC、メディアプレイヤーなど設備があり、入り口はテーブルから簡単に見通せる設計になっている。
「『イエス様』、か」
物理の問題集を解いていた英真は、少し手を止め、無表情でそう言った。
特に、他の同級生たちも発言に興味は内容だった。少なくとも、表面上は。
「本、取ってくる」「OK」「はーい」
軽いやり取りをして、英真は本棚の場所へと向かう。ほぼ同時に、『イエス様』も入り込んだ。
整列した図書館が作る、十字の道で彼と彼女は出会う。
適当に、本を取るフリをして英真は『イエス様』に話しかける。
「こんにちは」
「あ、はい、こんにちは。もう、こんばんは、かな?」
「どっちでも良いわ」
「はい」
「……そんなにハイ、ハイ言ってて、つらくないの?」
「なにも?」
心の底から不思議そうに、彼、『イエス様』はそう答えた。
「よく、いじられているじゃない」
「僕の中学校ではいじめられてた。
なにか拒否すると、すぐに暴力や嫌がらせがあったんだ」
「……」
まあ、事情は察した。おせっかい気分から、彼女は言葉を追加する。
「でも、今の環境は違うじゃない。変えてみなさいよ」
「はい……違うよね、これじゃ」
この彼の言葉に、英真は少し笑った。
「じゃあ、私と付き合って」
これなら、流石に断るだろう。そう思っての言葉だった。
「はい、喜んで……あれ?」
『イエス様』に断る癖を付けさせるには、本当に付き合うしか無いようだ。なにせ、このままだと学校生活がイライラとしたものになってしまう。
「じゃ、断る練習からね。
別れましょう。もう、私たちはここまでよ」
「……いいえ」
そして二人は、馬鹿みたいなやり取りをしているものだ、と。
ふと、そう我に返り、一緒になって小さく笑った。

あとがき

3000字くらいの予定でしたが、2000字弱となんかやっぱり短めに。

短編というよりは、ショートショートですね、これは。

普段の私は、自分の執筆する小説を、

『天才!! 重いテーマ!! 世界の命運!!』

みたいなノリで書くことが多く、日常描写に力を入れられない作風になりやすいのが悔やまれる、というか素直なコンプレックスでした。

もっと、生活の描写や性格の描写、人の心を丁寧に書いてみたい、そんな風に思ったわけです。

なにごとも、日々練習ですね。

今後も別の恋愛小説、壮大なストーリー寄りの小説を書く予定はありますので、気長に待って頂ければ幸いです。

実際のところは、放置するだけで良いのですが。

もやしか豆苗みたいに、小説などは生えてくるものなのだ(by偉い系書い人氏)。

 

ありがとうございました!!

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