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【New Eden Headline】1・プロローグ『対面:記者と商人』

YC125年が幕を開けて早2週間が過ぎた。
時間というものはかくも早いものだ。

…ジタへと向かうシャトル、そのカプセルの中で私はそんなことを考えていた。

 

事の始まりはYC124年の終わり頃に届いたスポンサーからの招待状だった。
『是非とも一度対面で会ってみたいものですからね。 そういうわけで、都合のいい時にでもこちらに来てくれれば嬉しいです。』
何かと忙しい私としては時間を作るのは簡単ではなかったが、それでもこれは無視することは絶対にできない話でもあった。

…あぁ、自己紹介がまだだったか。

私はEl Shionheart、生まれも育ちもカルダリのとある片田舎だ。
アマーで細々と独立系メディア…『New Eden Headline』を故郷の知人達と経営している。
主な仕事は現地取材、記事作成、他社メディア記事の翻訳…
あぁ、そうだ。
私達が使っているのはカルダリ系の少数言語である…なんて言ったか、ええと…

そうだ、カルダリの祖先の1つであると言われている民族の…『ニホンゴ』だったな。
ニューエデンの標準語ではない都合、中々私達のこの言語で書かれているメディア記事は少なく、そういう都合から私はこの仕事をしている。
…まぁ、当然需要も少なく、経営は常にあまりいいとは言えないんだがな。

さて、そんな最中に私に舞い込んできたのは奇妙でありながらも嬉しい報せだった。
というのも、ジタを拠点とするとあるミンマター人実業家が私達のこの、『New Eden Headline』に興味を持ったというのだ。
どういうわけか彼はミンマター人でありながら『ニホンゴ』にも精通しており、私達の事業に支援する準備もあるのだと言う。
今だから正直言えるのだが、最初はニューエデンにはありふれた詐欺だと考えていた。

実際のところは、詐欺でもなんでもなく、純然たる善意からの申し出だった、というわけなんだが…
普通疑うだろう、実業家や商売人などという人種は拝金主義だと…
いや、スポンサーの陰口はやめておくべきだな。

話を戻すと、今の私はそんな私達のスポンサーとなったミンマター人実業家のもとへと向かっているというわけだ。

…自分語りが続いてしまって悪いようだが、私は根っからのカルダリ人だと自負している。
自らのルーツを、歴史を知ればどんなカルダリ人だってこうなるだろう、とは思うがな。

分かりやすく言えば、私がガレンテ連邦という国がどうしようもなく嫌いだ。
New Eden Headline記者兼編集長という肩書の傍ら、戦場へと出て経営資金を調達することもあるが…
その時に相対する敵に、時々ガレンテ海軍がいるのだが、それらを撃沈する時にどうしようもない爽快感というものを感じる程だ。

だが、私はガレンテ人が嫌いというわけではない。
ガレンテ人の中にも、私と気の合う人間がいないわけではない。
そういう人間とは、積極的に交友関係を持つようにしている。

話を少し脱線させると、アマー帝国という国に関して言うなら、どうとも言えない。
カルダリとは確かに同盟関係だが、どう見てもガレンテ連邦にぶつけるための駒としてだろう…
だが、カルダリは確かに強大ではあるが、規模で言えばアマー帝国やガレンテ連邦には及ばないのも事実だ。
だからこそ、この同盟関係は決して不利益ではないと私は思っている。

そして、ミンマター共和国だ。
…こう言ってはなんなのだが、正直どうでもいいと考えている。
何やらガレンテ連邦が支援しているとのことだが、それは他に選択肢が無かったからだろう。

そう、繰り返し言っているが、件のスポンサーもそのミンマター人なのだが、彼はカルダリ人の私から見ても素直に尊敬に値する。
カルダリ人と同等か、あるいはそれ以上に経済や商業というものの何たるかを理解しているのだ。
それに我らカルダリにおけるカプセラ経済の最大拠点、ジタにオフィスを構えているというのも非常に高評価だ。

『スターゲート、ジャンプ中。』

機械的な音声──オーラの声で思考の海から現実へと呼び戻される。
気づけばジタに向かう最後のジャンプを行っていた。
…無意識にここまで来てしまったな、最近は警戒が緩んでいていけないな…
気を引き締めておかないとな。

『ワープドライブ、起動。』

ジタ最大の商業地…ジタ4-4、カルダリ海軍ステーションへとシャトルが一直線に向かう。
もっとも、今ではこのステーションも組み立てプラントとしての面影はなく、ジタトレードハブと呼ばれる独特な外観が人目を呼ぶ。
カルダリ海軍や代表取締役委員会からすればここが生み出す莫大な利益には笑いが止まらないことだろう。
隣のペリメーターにあるTranquility Trading Towerキープスターを運営しているカプセラアライアンスの指導部もきっと似たようなことになっているに違いない。

『入港許可を申請します… 入港申請、承諾。』

ステーションのトラクタービームに誘導され、シャトルがドックへと向かう。
ここまでくれば一安心だ。
…ジタの周辺は海賊の巣窟と有名だからな…

 

 

「ええと…彼のオフィスは…どこだったか…」

カプセルから降りた私は、さっと服を纏うと、ステーションのカプセラ区画にあるスポンサーのオフィスへと向かう。
愛用している携帯端末でオフィスの位置が記されたステーションの案内図を開く。

「…うん? もう1ブロック向こうか… ジタは普段来ないから分からないな…」

これが経理担当のSnowだったら話は別なんだろうが…

少し歩いて、ようやく目的地を見つける。

「んー、あったあった… kait…だったか。」

kait、それが今回のスポンサーの名前だ、苗字は不明…というか隠しているのかもしれない。
よく考えると…どことなくカルダリ人の名前にも聞こえるのだが、彼は産まれも育ちもミンマターらしい。

「うぅん… さて。」

咳払い一つ、私は声音を変える。
そして、部屋のインターホンをコールする

「あぁ、もしもし、ミスターkait? El Shionheartですわ。 連絡通り、来ましたわよ。」

 

 

「Shionheart女史… コーヒーはお好みかな?」
「あら… これはご丁寧にありがとうございます、ミスターkait。」
「お口に合えばいいのだが。 さて、この度は招待を受けてくれたこと、感謝する。」

私の目前の、テーブルを挟んだ対面側のソファに彼が、kaitという男が座る。
なるほど、通信越しで見ていたとはいえ、こうやって対面で見れば…まさにミンマター人と言えば、という容貌ではあるが…
しかしながら、丁寧な口調はやはり実業家らしい…か。

「いえいえ、こちらこそ、わたくしどもNew Eden Headlineへのご支援、改めて感謝申し上げますわ。 前にも申し上げましたけれども、資金的には決して楽ではありませんので、本当に助かりますの。」
「まぁ… それはWin-Winというものですよ、Shionheart女史。」

私は彼が用意したコーヒーを一口、口に運ぶ
…悪くない、いいチョイスだな。

「…Winと言えば… ミスターkait、そちらの商売の様子はいかがなのでしょう?」
「ふむ… まずまずですよ。 最近は中長期の相場を見越した投資などを主としていますがね。」
「中長期… さながら、投資家、というところですわね。」
「投資家… あぁ、まさにそうですな。 …そういうShionheart女史はどうでしょう?」

どう、か。
まぁ…

「そうですわね… 昨年中は色々ありましたから中々休む暇もありませんでしたわ。 ただ、最近は… そうですわね、昨年の11月ぐらいからは落ち着いているような雰囲気ですわね。 ミスターkait、貴方のような商売人にも影響のある… そう、戦争についての話題などが落ち着いていますもの。」
「確かにそうですな。 ここ2か月ぐらいはShionheart女史の書いた記事を読んでいないような気もしますな。」
「…まぁ、そうなりますわね。 こちらとしても記事の内容などは取材や調査を交えつつ検討しているものですから。」
「いや、別に責めようというわけではありませんぞ? Shionheart女史、貴女の記事は何かと世俗に疎い私にとっての貴重な情報源でもある… 今後とも正確、そして鮮度のいい情報を頼みたいというものですな。」

今までにも何度か話していて分かってはいたことだが、この男は商売については非常に深い知識を持っているが、それ以外の事となると確かに若干疎いものはあると感じてはいる。
恐らくは、これも本心なのだろう。

「ふむ… 意外ですわ。 商売人というものは皆、その手の情報には聡いものだと思っておりましたから。」
「私はただ、その場その場の市場の動きを見ること、それからその先を少々読むのが得意なだけ、というわけですよ。」

謙遜か、本心か…
さて、分からないものだ。
どこまでを信用していいものか。

「先を読む… ですか。」
「えぇ。 商売というものは結局のところ、最後に儲かるか否かですからな。 目先の利益も重要かもしれませぬが、それに囚われ過ぎれば大きな取引を見逃すというもの。」
「まぁ、分からない話でもありませんわね。 …そういえば、先を見据えると言えば、今のこのニューエデン情勢のエスカレーション。 それがどこから始まっていたのか、ご存じですか?」
「いや… そういえばあまり気にしていませんでしたな。 気づけば、いつの間にか4大国家の関係が悪化し、今のような情勢に… Shionheart女史、その口ぶりからするに… 直接お聞かせ願えるのですかな?」
「そうですね。 せっかくの機会ですわ、お時間が許すのであれば、喜んで。」
「今日はもうこの後の予定はありませぬ。 ですから… こちらこそ時間が許す限り、いくらでも、と。」

まぁなんと都合のいいことか。
私もこういう話は好きだ。

「いいでしょう。 …では… 確かに今の情勢を形作るきっかけは様々です。 過去の遺恨や、ここ10年の不安定な情勢… ですが決定的となった話はYC124… 去年の4月、ここジタ4-4で起きたガリスタス工作員によるスパイ事件からですわ…」

 

 

 

 

※当記事は橘 雪(たちばな ゆき)/El Shionheart氏による寄稿記事になります。

 

ありがとうございました!!

さて、今回の対談からお話がどう転がっていくのか、続報をお待ち下さい。

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