ワンダー・ビッグ・シティ

【ワンダー・ビッグ・シティ】第三章「逃避行」【オリジナル小説】

第三章「逃避行」

夢から覚める直前まで、ミラクは市警察(シティ・ポリス)の管理する留置場(りゅうちじょう)内に居た。
ひどく、嫌な夢を見てしまったのである。
そしてそれは予知夢であることを、ミラクは認めたくはなかったが、事実として受け止めた。
ミラク、そして彼の所属する会社は、言うまでもなく不法移民(犯罪者)の所属する犯罪組織。それは、間違いようのない事実だ。
「大まかな警察の動きや、私たちと非友好的な組織の行動が知りたいです。
大至急、必要です」
出社早々、ミラクはこの『緊急の要件』を社長に直談判をした。
「何か、見えたのか」
社長――四〇歳を手前に控えた人間の男がそう言った。
隣に座る秘書の女性(こちらも人間)が、緊張して座っている。
「私の人生で、こういった強制的に見える予知夢が外れたことはありません。記憶に誤りがなければ。
……そういうことです。
下手を打てば会社が潰れるどころか、全員の居場所が失くなります」
凛(りん)とした声で、ミラクはそう言った。
「今日の投資は休みだな」社長の判断は機敏だった。若さゆえの柔軟性と、そこそこ年齢と経験を重ねたが故の判断力があった。
パン! と社長は手を叩いて、「必要な情報は仕入れる。他にすべきことはあるか、ブレーン殿!」
威勢よくそう言ってくれた。社長の決断を把握したミラクは、
「重要な電子データを、持ち運び可能(ポータブル)なもの――つまりケータイやノートPCに必ず移して、またいつでも逃げられるようにしてください。
ライライと私が作った例のアプリを入れて、逃走経路の確保や、集合先を複数、決めておくのも重要です」
「……。逃げることが前提なのか。
やれやれだな……、いや分かった」
ミラクは今までにないほど厳しい目で視線を送っていた。最大限でアイコンタクトをしたつもりで、これらの言動で伝わらないのなら、残念だがミラク自身だけでも逃げる可能性はあった。せめて、ラッドンにライライなど、仲の良い間柄には声をかけたかったのだが。
ただ、『未来視』などという理由で、風説の流布をするわけにもいかない、とも思ったのは事実だった。
「とりあえず、今日中に身支度と社員全員に根回しをしておこう。ミラクは情報を見るだけ観てくれ。幸い、我が社には埋蔵金がある。
しばらくの間、全員の生活はどうにか賄(まかな)える」
「本当ですか!!」
驚きと安堵の声が、社長室に響く。
「いやミラク、お前が投資で稼いだ金のことなんだが……」
「……あ、はい……」
とんでもない間抜けも居たものだ、と正直ミラクはバツが悪かった。ほんのりとだけ、笑ってしまったが。
「笑っている場合ではありませんね」

「ライライ、手はずはどうだろう?」
「ほぼ、いや、完璧に把握しつつあるライ」
ライライはパソコンの前に座ってはいるが、いつもの激しめなキータッチではなく、マウスで画面をスクロールして画面を往復して確認して見ている。
仕事が終わりかかっている証拠だろう。
ミラクがライライに任せた仕事は、情報収集系全般だった。
市警察(シティ・ポリス)の公式ホームページを素直に見て、不法移民などの摘発情報を探る、社員全員に必要なケータイや。ポータブル端末(ノートPCや超小型(ミニ)PC、モニター、有線ケーブルなど)の支給・準備。
さらには極めて具体的な移動経路を、代替プランを含めて探してもらっていた。
情報の最後はミラクが調整して、社長に権限を頂く。
計画は完全ではない。そんなものはこの世に存在しない。が、これで十分だ。
「だいぶ流動的な計画だライねー。
相変わらず、頭が良いというか」
「ああ。こればかりは、私が居なければ難しいだろうな」
「あと、おおよその情報と、一番気になったのはこの辺りですライ。
小さい情報だけど、見逃すべきではないのだライ」
データが共有されているPCのモニターを見ていたミラクは目を見開く。
黒社会と市警察との間での、司法取引の話が僅かに流れているようだった。
司法取引。
簡単に言えば、減刑・免罪をアテにして罪を自白したり、その他の犯罪に関わる情報を供述したりすることで、自らの減刑を図る犯罪者と警察との公的な取引のことだ。
法的に許されていて。昔からある制度だったが、警察に一部の強硬派が居るのか、最近は積極的に利用されているようだ。
――お前の仲間を吐けば、こんな惨(みじ)めな思いから解放されて、罪まで軽くなるんだぞ?
そういうことで、割と芋づる式に『同業者』の犯罪、不法移民たちの組織が、居場所が消えて言っているようだった。
「やはり、これが今思いつく最善手だ」
作戦。
ミラクの立てたそれは、とにかく組織の危険の分散に気を使ったものだった。
まず、ケータイは防諜の観点から、音声通話を徹底して避ける。市警察がそこまで過激な諜報活動をしているかは未知数だった。ならば、最悪を想定しなければならない。
『一定時間が経過すると、通信履歴が完全に削除されるアプリ』を使うが、文章のみに限定する。
『社員』の動きも流動的に、分散させる。
金さえあれば居座れるインターネット・カフェや、簡易な宿泊施設で数十人を各所に『出勤』させる。現在の居場所は引き払う。
そもそもが違法なのだから、堂々と一箇所に留まるという考え方がおかしいのだ。
仕事柄、『本社』の住所が必要なわけでもない。
ミラクたちの『会社』の仕事は、中核となるものが幾つかあり、
主に不法移民を、他の違法労働へ斡旋(あっせん)する、
同業の営業利益などのデータ入力作業、
そしてライライとミラクの共同作業である、合法・非合法を問わずのアプリ開発。
これらが中心となっている。
労働者の斡旋・派遣業が儲かるのは、まあ下衆(げす)な話ではあるが中抜きであり、同業他社にコネさえあれば金になり続ける。
データ入力作業は、仕事そのものがAIに取って代われられるには、まだだいぶ時間がかかりそうだし、雇っている人数も作業量も多い。作業量に対するパフォーマンスはやや悪いが、人数を考えると一般的な仕事。社長が数年かけて培(つちか)った職務上の信用もあるので、収入源としては最も安定しているし、なによりも、数十人の『社員』の雇用創出にも繋がっている。
アプリは慎重に運用しており、基本的には社内での利用と、そのデータは法外な金額、すなわち、極めて高い金額で売買されている。縁故(えんこ)のある会社には格安や割引いた相場で提供することもあるが、とにかく儲かる。ライライとミラクの大成果である。
おまけはミラクの株式投資だが、まあ利回りがえげつないものの、投資であるのは事実。
完全な信頼は置き辛いのというのがあるらしく、今のところは次点の収益源になっている。
社長や古くからいる重役、当のトレーダーのミラクも、補助的な予算として運用していくことで合意している。
ミラクに不満はなかった。元々、会社の資金の一部を、二倍以上にしただけなのだ。
「ありがとう。
短い間だったか、郷愁(きょうしゅう)を感じないわけではない」
地下街にある、何の変哲もない居城(きょじょう)――雑居ビルを後にするとき、ミラクは誰も聞こえないような、そう小さな声で言った。

「私は引き続き、株式投資と、君のイタコ係だ」
「グラサンを掛けているだけで、なんだか怪しくて強いヒトにでもなった気分だライ!」
未来を見すぎる目と、感性の鋭さを表す目。双方はサングラスをかけて、インターネット・カフェの店員を脅すようにして(ただし利用料金は一週間分を先に支払い、店員にもチップを付けた)、堂々と一週間前後、居座ることに決めた。
怪しまれるようなら、すぐにでも場所は移動する予定になる。
狭い、仕切りの付いた部屋にケータイはもちろんサブモニター類も持ち込んで、デスクトップ・パソコンに繋げて流す。いつものWBCニュースでは、大規模な区域を対象とした『反社会的組織』の一斉摘発の報道が流れていた。
「危なかったライ、さすがはミラク様だライ」
本当に危なかった、という思いはミラクも確かに大きい。褒め言葉にも慣れたが、やはりライライの素直さをミラク自身も、心のどこかで拠り所にしているところがあった。
「この違法アプリは、一〇〇人前後の規模で作っている、という嘘を同業者に流したのも役に立ったようだ」
もちろん、本当はライライがメイン、補助にミラクが動いているだけなのだが、あらかじめそういう嘘を吐(つ)いておいたほうが良い、と社長にミラクは入れ知恵をしていた。
「捜査の網が混乱したのだライ……?」
「その通りだ。
シティ・ポリスは、大規模組織の大掛かりな摘発にばかり躍起になっている。
我々は見過ごされるほどではないが、深く捜索される危険はだいぶ減った」
なにせ、推定される統計上で七人(・)に一人が不法移民という、不法のはびこる大都市がこの、WBCだ。
居場所など、自分で作っていけるし、よほどの凶悪犯罪をしていなければ都市から締め出される程度で済む。
罰則は強化されるどころか、警察が打ち出した、司法取引による芋づる式・不法移民の摘発捜査のために事実上、減刑されている始末だ。
「一瞬で命の取り合いに発展するようなことは、まあ無いだろう、とは思う」
シティ・ポリスは拳銃を持つが、通名で『許可式拳銃』と呼ばれるものであり、よほどの凶悪犯が相手でない限り、常に電子・物理的にロックが掛かった状態になっている。
ハーフ・アルマゲドンのおかげというか、その大戦争のせいで、武器や兵器類の管理は極めて厳重になっているのが現代なのだ。
人類とクリーチャーは滅びかけたが、お陰で『物騒なものは初めから持つべきではない、抑止力にもならない』という一般概念(いっぱんがいねん)が定着している。
事実なのかはさておき、軍事力というものが形骸化(けいがいか)した現代なのだ。

あとがき(書きかけです)

第三章も、やはり1万字前後(多分1万字弱)を予定しています。

さっさと続きが読みたい方もいるでしょうし、反応をみることができれば嬉しいので、今回からは少しずつ更新していくことにしました!!

(始めから完成した章の全文を載せていかない方針に切り替えたわけです。

こちらのほうがスマートですね、多分。

Web小説家(アマチュア、が外れることを祈っています)の強みを、徹底的に生かさないと)

随時(ずいじ)、加筆・をしていく予定です。

まあ、色々と動いていますね。

(もっと、いろいろな勉強・学習もしたいなあ)

日々の作業量は多いとは思いますが、ちゃんと睡眠は取れています。

よく食べ、よく眠れば、体調管理には問題ないはずでしょう。

疲労が残るなどがあったら、ちゃんと休みますね^^

ありがとうございました!!

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